一般に、自分の性格を変えたいと考えている人は少なからず存在します。一方で人間の性格は変えられないという説もあります。性格が人間の内面を表したものである以上、それを制御するのが外見よりも難しいことは想像に難くありませんが、誰でも性格を変えることができるのか否かを一個人の経験や根拠のない推論で討議しても答えは出そうにありません。
心理学では、人間の性格について長く研究が続けられています。科学的見地による性格の定義や構成要素、それらを専門的に分析する性格心理学などについてご紹介しながら、人間がもつ性格について考えていきます。
目次
そもそも心理学とは?
人間の性格をロジカルに紐解いていくうえで心理学は重要なファクターであるといえますが、そもそも心理学とはどういった学問で、人間の性格についてどのような学びを得られるのでしょうか。
心理学は哲学が起源とされていますが、哲学が一言でいえば理性的、理想的な追及がなされているのに対し、心理学はより人間の素性に焦点が置かれています。
人間はそれぞれ、あるシーンにおける反応に差が生じます。愉快な場面に遭遇した時の笑い方、重要な試験を前にした緊張の度合やその表情、出発間際の電車に思わず飛び乗るか次の電車を待つか。それら生活の中で訪れる様々なシーンへのアクションは人によって異なることが分かりますが、これは性格の違いからくる行動の差異であるといえます。心理学の根幹は、人間の心とそれによって導き出される行動を研究、解明することから成り立っています。
心理学における性格の定義
心理学会で著名な存在である故・ゴードン・オールポート氏は、人間の性格について次のように定義しています。
『個人の内部で、環境への彼特有な適応を決定するような、精神物理学的体系の力動的機構』
つまり、心理学的見地で人間の性格における定義を理解するには、精神物理学への造詣を深める必要があるということになります。
また「性格の理論(金子書房)」という書物には、冒頭で以下のような記述があります。
『性格とは何かということを、明快に定義することは、けっして容易ではない。ことに性格という言葉を説明するためには、それと関連のある気質とかパーソナリティとかいう言葉との関係も明らかにされなければならない。これはなかなか大変なことである。人々によって、みなその使い方がちがっている。』
この一文にある通り、性格を定義づけるには付随する様々なキーワードを理解する必要があるものの、それらは多様な解釈によって成り立っているため答えが唯一とはなり得ません。心理学において、性格の定義は無数に存在し、それぞれの研究者が自らの研究に基づいて定義をたてているのです。
性格は変わるのか?
性格を構成しているのは、大きく分けて気質的要因と環境的要因の二つとされています。このうち、気質的要因とは生まれつき備わった感情の傾向と言い換えることができます。つまり先天的な構成要素です。一方、環境的要因とは生まれてから現在までに触れてきた様々な出来事によって形成された自己の思想であり、これは後天的な構成要素です。
「人間の性格は変えられない」という説がありますが、この一節が唱えているのは気質的要因を指したものと考えられます。生まれつき備わった感情の傾向を変えることはできない、と言い換えれば納得する方も多いでしょう。
しかし、人間の性格は変えられるのか?と聞かれれば答えはYESです。例え気質的要因を変えることができなくても、環境的要因を変えることは可能だからです。
性格における環境的要因を形成してきたのは、なにも大きな出来事ばかりではありません。親や友人との会話や学校で目にした光景など、普段何気なく接している物事によって形成されている部分の方が多いのです。繰り返される出来事によって生まれた思想は深層心理に定着しやすく、それが性格となって現れます。
この環境的要因は後天的な要素のため、自己の意識と行動によって変えることが可能です。
性格は遺伝で決まる!?
身体的特徴について考えた際、遺伝の存在が認められる部位があるのに気付く方は多いでしょう。性格にも同じことがいえます。気質的要因は生まれつき備わった性格の構成要素であり、これには少なからず遺伝の存在が認められるケースがあります。
ドイツの医学者であり精神科医でもあった故・エルンスト・クレッチマー氏は、人間の気質について研究し、体型との相関関係による気質を分類しました。
細長型
分裂気質。静かで控えめ。社交性に欠きますが大人しく、温和な面も備えています。生真面目で読書などを楽しむ嗜好的傾向があります。
肥満型
躁うつ気質(循環気質)。社交的で親切、温厚なタイプです。活発でユーモアに溢れる反面、時に激怒したり泣いたりといった感情的行動がみられます。
闘士型(筋骨型)
粘着気質。物事に熱中しやすく、興奮をもって夢中になるタイプです。几帳面で秩序を重んじる傾向があります。思い込んだら一筋といった頑固な面がある一方、回りくどいと評価される一面もみられます。
全ての人間がこの三分類に当てはまるとはいえませんが、ほっそりとした華奢な方に内向的なイメージを抱いたり、恰幅の良い太った方を優しそうと感じたりと、体型に気質を結びつける考え方は実際に存在するようです。
性格心理学
性格心理学は人格心理学、パーソナリティ心理学とも呼び、人間の性格という実に複雑で謎に満ちた題材への挑戦を続けてきた学問です。科学的な根拠をもって気質や思想を解明する使命を担っており、その研究成果は個人から家族、チームや企業といったあらゆる人間組織の融合性に多大な貢献を果たしています。
性格心理学に尽力した世界的に著名な研究者は多数存在します。それらの研究者が取り組む「性格に対する研究命題」は、大きく二派に分かれています。
類型論
人間が持つ様々な特徴がその人物の性格に影響しているという考え方に基づき、ある一つの特徴を取り上げて分類することで性格の違いを把握するという理論です。分類する特徴は体質的、生物学的な要素から心理的、気質的な性質まで多岐に及びます。
特性論
性格を構成している幾多の心理的、行動的傾向に着目し、それらの量的バランスによって個人の人格に差異が生じていることを裏付けようとする立場の理論です。あらゆるパーソナリティーは元来誰もが所有していて、それぞれの量によって個人が形成されているという前提があります。
また、性格によってもたらされる一貫性のうち「通状況的一貫性」が否定されたことによって、性格心理学では現在「状況論」「相互作用論」「特性論」という三つの理論に基づいた研究が進められています。
あなたの性格はこうして作られた!
性格心理学の研究により、人間の性格は生まれ持った気質という土台の上に環境的要因が重なって形成されてきたことが分かっています。また、環境的要因には家庭や学校、クラブ、会社などあらゆる社会との関わり合いによって構成される「社会的性格」と、さらにその上には自己の役割を理解して務めようと繰り返すことから構成される「役割性格」の存在が認められています。
環境と性格
性格を形成する環境とは、生まれてから今までに遭遇してきたあらゆる場面のことを指します。最たる例としては親との出会いがあります。特に、乳幼児の頃は親との関係が自己の持つ社会の全てである場合が多いため、社会的性格の第一歩は親との関係性、つまり親の子に対する接し方であるといえます。
社会と性格
人間にとって、自分以外の人間が所属する全ての団体が社会と言い換えられます。家庭、学校、チーム、会社、広義的には国や民族というくくりを社会とすることもできます。それらの各社会に存在する理念や通念、ポリシーといったものが性格の形成に影響しています。日本という国にある仕来りも、勤務する部署の風習も自己の性格を形成する要因です。そういった外的環境から作られる性格を社会的性格といいます。
役割と性格
人間は必ず何かの社会に所属しています。家庭や学校、会社に所属していなくても日本という国に所属していますし、民族の一員となっています。
そして人間は、それぞれの所属する社会において役割を担っており、また担おうとします。キャラクターなどと言い換えることもできるでしょう。役割性格とは、所属する社会において自己の立ち位置を把握し、そのキャラクターを担うことで形成される性格です。
会社や団体の中で「自分の居場所が見つかった」と表現する方がいますが、これが役割性格の存在を証明しているといえます。
あなたの性格を変えたいですか?
心理学による人間の性格を科学で解明する挑戦は古代ギリシアで発祥した哲学から現代に至るまで続いており、さらにこれからも続いていきます。それは精神物理学や生体学、脳科学など多くの他分野を巻き込んだ超大なプロジェクトとなっており、ロジックは確実に深度を増しています。
現在でも人間の性格を変えることは可能という結論は出ており、将来的には自分の性格を変えようと決意した人が、それを科学的に実行できる時代がくるかもしれません。しかし、自己啓発的に見れば自分の性格を認め、受け入れることが本当に大切なことであると気付かされます。
欠点を認め受け入れるには、時に勇気が必要となる場合もあります。しかし、その挑戦こそが自己を成長させ、魅力ある人格を形成していくのです。
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